量、空間、存在2014/06/13 10:51

とある展覧会で、彫刻に携わる先生とお話する機会があった。
洋画・日本画、写真、工芸、彫刻、書といったジャンル別の公募展なのだが、主流はやはり洋画や写真で、応募点数も圧倒的に多い。対する彫刻、まず使用する材質がそもそも重くて大きい、扱いも運ぶのも大変なので、思い立ったら気軽に出品~という感じではない。私も、正直あまり興味はなかった。今回、本当にたまたま、30分ほど彫刻の展示場所にいたのだが、もしかしてもしかしなくとも、これほどじっくり彫刻を眺めたのは人生初めて。

やっぱり絵とか、写真とかのほうが人気だよね、と苦笑しながら仰る先生。
「でも彫刻も、面白いんだけどねえ…」

彫刻は立体なので当然、360度どこから見てもちゃんとした形を成していないといけない。細部まで創る人の気持ちが伺えるその「かたち」は、少し見る角度を変えただけで、まったく違う表情になる。

「これね、こっちから見るのが一番いいの。だけど、反対側からみると・・・」

なるほど。確かに面白い。

ところで、と質問。目の前に、細長い鉄の板を立て曲げたり穴を開けたりして繋げたオブジェがある。

「これも彫刻というんですか?工芸というジャンルもありますけど、それとどう違うんですか?」

先生、ちょっと笑って、でも即答。

「本来は、彫刻というのはその名のとおり何かを彫ったり刻んだりするものだけど、それを作品として評価するときに何が必要かというと、

まず量。十分な量がある、という量感。

それから、空間。物それ自体だけでなく、その物が創りだす空間。

最後に、存在感。

その3つが揃えば『彫刻』なんだよ。まあ、この頃は飾る場所も高層ビルとかで、従来の石やブロンズの仰々しい彫刻より、こういう、縦の線のあるやつが似合う」

な、なるほどー!目から鱗!

工芸は、その名の通り「たくみの芸」。何らかの技術を使いどのようなものを創り出すか、創るための材料・過程・結果すべてがその「物」に凝縮され、物それ自体がすべてを語る。

彫刻は、量を持つ「物」が空間を作り存在を与える。

そう思って眺めると、並べられた作品の一つ一つが俄然いきいきと世界を語り出すような気がしてくるから不思議だ。この歳になっても、知らないことって本当に沢山あるんだなあ。

さて、和紙はどうだろうか?

物としては、間違いなく「工芸」。しかしその工芸品を立てたり丸めたり、組合せたり繋げたり、していけば確実にひとつの「世界」を創る。

量と、空間と、存在。

「工芸」としての枠を超えた和紙の世界を大きく拡げるためのキーワードになるかもしれない。