2020年、明けましておめでとうございます2020/01/07 13:05

長田の正月飾り

昨年度も、多くの皆様にお世話になり、誠にありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、昨年の夏前に始動した「マンションに本襖プロジェクト」(うろ覚え)ですが、細々と続いております。というか肝心の襖紙発送が年末ギリとなったもので…まあこれもわし太夫へのご注文が夏以降雨あられと降り注いだ結果ですので、有り難いことでございます…というわけで、マンション本襖の完成レポートはもう少し先になります。今しばらくお待ちくださいませ。

それと、昨年チラっとお知らせいたしました
「Wrap the Glove in Washi」
の紙本がようやく出来上がりました。内容も若干変更しております。BCCKSで販売しておりますが、何と今日までは紙本割引ということをすっかり忘れており…
わし太夫や榮子さんの過去の業績、もしご興味ある方いらっしゃいましたらこちらにコメントいただくか、
kawakamihime@gmail.com
までご連絡くださいませ。数は限られていますがもう少しお安くお分けできます。なお発送は1/20以降を予定しています。

Wrap the Globe in washi 2001』 OSADA WASHI著

続いてきた理由 十三2020/01/10 16:05

旧い書籍とファイル。私にはお宝に見える
 久しぶりに「続いてきた理由」。随分間が空いてしまったので、前回からの続きと言うよりも、最近もろもろ思ったことをつらつらと。

 父が亡くなった2018年3月以降、実家の資料類の整理をはじめたのですが、これがまあ中々に一大仕事。マメな父だった故にとにかく量が多い!特に写真!昭和の半ば以降は写真時代といっても過言ではない、皆がカメラを持ち行った先々で撮りまくり、焼き増しして配り配られていた。日本全国でみたら一体どのくらいの枚数の写真があることでしょう。億ではきかないのではないでしょうか。実家のそれもご多分にもれずおそらく千単位、下手すると万に届く。これは大変だ。
 母は捨ててしまってもいいと言う。どうせ誰も見ないからと。何の役にも立たないしと。
 うーん。
 本当にそうか?

 年末に、美空ひばりさんのAIによるライブ映像を観ました(紅白でも出ましたね)。ステージに立つひばりさんは映像であり、歌声も機械によるもの。それでも観客は感動し、司会者は涙にむせて暫く何も喋れなくなっていました。こういったやり方に賛否はあるでしょう。作ったご本人も無暗に何でもやろうとは思わない、慎重に扱うべきと仰っていました。確かに、元の歌ならともかく新曲を歌わせたり、本人がしてもいないコメントを言わせたりは、中々考えようが難しいことかもしれません。遺族の了承を得て・AIであるとはっきり明言し・観る人も選ぶ、といった様々な条件を付け制限をかけてやっと実現に漕ぎつけられたことなのだろうと察せられます。
 ただ考えてみれば、今自分たちが聞いている音楽、読んでいる本、観ている絵、勉強していること、すべて「かつて生きていた人」のものが多く含まれています。人類が言語を獲得し、記録を残すことが出来るようになって以来、どれだけの「データ」が積み上げられてきたか、それはもう気が遠くなるような量でしょう。
 この世の中全ては、誰かの作った、もしくは誰か自身のデータで出来ている。
 そう考えると、そもそも特定の人のデータを集約し再構成して作るAIの画像や音声は、単に昔から世界中で連綿と続いてきた営みの進化系として考えてもいい気がします。遺したいと思う気持ち、大事に保存して誰かに伝えたいと思う気持ち、そこは昔も今も本質的には変わらない部分でしょうから。
 

 で、ここで最初の疑問に戻りますが、そもそも今残っているものは当時本当に「価値あるもの」として扱われていたものばかりなのでしょうか?価値があるから残って来たのであって、無いものはおのずと淘汰されていった、という考え方ももちろんあるでしょう。しかし、世の中を眺めてみると案外そうでもない。ただそこに在り続けたから価値が出たというものも、長年棄ておかれていたが後世にはじめて価値を見出された、というものも多くある。
 してみると、今に生きる自分たちの尺度だけで「役に立つ・立たない」をはかるのは無理な話なのではないでしょうか。

 このシリーズ(なのか?)、ゆるゆると続きます。

マンションのダン襖を本襖に替えますプロジェクト! その32020/01/23 14:21

 その2から随分と時が経ってしまいました・・・皆さま覚えておいででしょうか。時の流れはほんに速いものでございます(違)。
 あれは師走も半ばに差しかかった頃でございました。わし太夫から
「出来たよー表具屋さんに送ったよー」
とメッセージ。え?今?
「作業は年明け、納品20日前後になっちゃうけどいいですか?年末で色々立て込んでて」
とご連絡くださった塚田さん。すみませんね、って謝るのはこっちですううう。誠に申し訳ありませんです。全部わし太夫が悪い。うん。

 というわけで、このたび。
 ついに、ついに完成いたしました…!
 うちのマンションのダン襖が、この通り立派な本襖に!
 諸事情あって部屋全体はお見せできませんが(お察しください)まるで別の部屋のようです!わーい!
和室・幅広襖二枚(部屋側)
わし太夫渾身のシャープなラインと繊細なカラー。画面だとちょっと色がわかりづらいかもしれませんが、ふんわりした優しい色合いで落ち着きます。
手間かかってますよー
入り口側はシンプルなホワイトの縦ライン。清潔感あります。
入り口側
ここだけ映すとマンションとは思えませんねー
 本襖をいちから作り、わし太夫の和紙を張ってくださったのは以前ご紹介したとおり「山下表具店」の塚田さんです。
 例によって横で写真撮りーの喋くりーのウザイ私をものともせず、手は止めずに懇切丁寧な説明をしてくださる塚田さん。相変わらず(←)散らかった部屋で、すいすいーと軽やかに襖を取りまわす。
作業中の塚田さん
 ところが思わぬ事態が!
「あれ、幅が…」
 洋間の一枚を入れる桟の溝の幅が何だか狭い。隣の和室に比べるとその違いは歴然。
「入らないねこれ。削らないと」
 あんまり削りたくないんだけどなーと言いつつ、サクサクと襖の枠の端を削る塚田さん。通常、溝の幅は規定サイズのはずだが、多種多様な業者が入り一辺に多くの部屋をつくっていくマンションの場合、この程度のズレはままあることだという。
「単に部品を組み合わせていくだけで、一つ一つ作っていくって感じじゃないんだよね」
 規定通りのサイズになってるかどうかなんて誰も気にしていないんだろう。とにかく速くとにかく沢山、で突っ走るだけ。結果、些細な作業を怠って後にしわ寄せがくる。
 塚田さんの仰ることは全く難しい話ではなく、当たり前のことを当たり前に考えて、その都度必要なことを実行してらっしゃるだけだ。
「自分がどう、じゃなくてお客さんがどう思うかなんだよね。お客さん第一で一生懸命考えてやってくのが、結局は自分のためにもなるんだよね」
 首がもげるほど頷くわたくし。
 日本のものづくりの原点ここにあり。職人って本当に凄い。
 昨今、和室のあるマンションは売れないっていうし、もう職人もいらねえんじゃないかなあと寂しげに呟く塚田さんに
「いやいや、必要ですよ!でも、片方だけじゃダメなんですよね。普通のサラリーマン的な人たちと職人と、両方いないと!」
 と思わず力説する私。

 何とか、この先人の知見と積み上げた経験の塊のような「技」を、暮らしていけるだけの生業として継承していく策はないものかしらん。フローリングは確かに便利だけど、結局ラグとか敷くのであれば畳の方が実は掃除しやすいし長持ちする。引き戸の方がドアよりスペース有効に使えるし、襖ならば軽くて湿気も吸ってくれる。というわけで声を大にして叫んでみる。
 皆さまもお部屋を丁寧に調えてみませんか?何も和室でなくてもいいんです。マンションでも本襖ライフは楽しめます。思いのほか変わりますよ!
 
※次回は、塚田さんよりご提供いただきました
「本襖を作る工程写真」
を掲載します。お楽しみに。