神の紙2012/07/20 12:45

うちに「和紙の手帖」(1988年刊行、全国手すき和紙連合会発行)という本がありまして。
それをつらつらと眺めていたら、この間亡くなられた山田五十鈴さんのコメントが掲載されてるのに気づいた。
 和紙だけは日本の大事なもんですから、和紙の持つよさを、どんどん皆さんに知ってもらいたいですね。
 歌舞伎でも、”廓文章”(くるわぶんしょう)の藤屋伊左衛門、あれは紙の衣装を着ていますね。舞台の場合には、紙に見えるようにしているけど、以前は実際に紙衣の着物があったらしいので…非常に暖かだったそうですね。あんなものを若い方々が、お洋服などになさったらよいと思うのですが、若い方々でも、ヒントを得て、パっと思いつくと、興味を持たれると思うのです。
 芝居の雪は、三角に切ったものですが、昔は、あれが和紙だったのではないでしょうか。今は、紙がないと言って、舞台の関係者が騒いでいます。和紙の用途は、まだまだいろいろあるのですが・・・。
(「くらしと紙」海部桃代対談より紙業タイムス社刊、昭和53年1月号から)

おお、歌舞伎の雪が和紙(1.5cm角に切った四角形。演出により、サイズ違いのものを混ぜ込む場合もあり)だということは聞いたことがありましたが、紙の衣装も使ってたとは知りませんでした。そこでぐぐってみたらばこんなのも見つけた。
紙の博物館サイトより
「歌舞伎衣装とお水取り法衣にみる『紙子(かみこ)の着物』」
・・・紙衣を用いる理由は、蚕を殺さず、女人の手を煩わせずに作れるため、仏教の戒律にかなう法衣(ほうえ)であったからである。紙は古来より神聖なものとされ、特に白い紙衣は「清浄衣」として着用されてきたのである。

紙の伝来は、仏教よりちょっと前みたいですが、相当に貴重なもので、まさに神技!という感覚だったのでしょうね。もともと絹を意味するパーツでできた漢字の「紙」を「カミ」と読むようになったのは奈良時代かららしいですが、やっぱり「神」から来てるんじゃないのかなあ。

それにしても「蚕を殺さず」はともかく、「女人の手を煩わせずに」作るのが「清浄衣」って…失礼しちゃうわねー。私が紙の製法教えたのにby★かわかみひめ★
こんなにキレイなのも出来るのに、ねー。(桂由美さんデザイン・製作の和紙ドレス)
まあ、ことほどさように和紙というのは特別なものだった、ということでしょう。

ところで、この「和紙の手帖」という本はかなりの良本であります。初心者にもわかりやすいシンプルな構成で、和紙の歴史から細かい製法、手入れの仕方までまとめられ、結構深くて濃い内容。今はもう売ってないし、おそらく地元にしかない…んじゃないかな。もったいないので、今後もこちらで少しずつ紹介していくことにします。