とあるエピソード 四2009/09/24 20:36

「おばあちゃん、タクシーの運転手さんはどうしたの? 平謝り?」
「ほんなことせんよ。旅館着いて、荷物下ろして、はいご苦労さんで普通に帰んなった」
「ふうん、今だったらクレームとか大変だよね。タクシー運転手の癖に道も知らんのか! とか、運転下手だとか、到着が大幅に遅れてどうしてくれる! とか」
「あはは、私も今やったらちょっと言うたかもしらん」
「でしょ」
「でも昔はほんなこと言う、なんてこと思いもつかんかった。若かったっていうのもあるけど、ただ、起こったことに対して、皆でどうしよって考えて、それぞれの出来ることをしてただけや。雨降ってるから傘でもさしかけよ、とかの」
「すぐ誰の責任とか何とか、て言わないわけね」
「そう」
「おじいちゃんも、声を荒げたり怒ったりはしなかったのね」
「もちろんや。ああすればこうすれば、って言うてただけで」
「でも、いくら昔って言っても、そういう時に威張り散らすような人はいたわけでしょ?」
「うん。特に自分の奥さんの前だと、男の威厳をみせるって目的で、そういう態度を取る人もいた」
「女の人だって、ぶんむくれちゃう人もいるでしょ?」
「ほやの。ぷん、として車にこもるとかの」
「でもおばあちゃんはそうしなかった。一緒に動いた」
「うん」
「そういう二人だったから、今まで続いてきたんじゃないの?」