むかし語り(五) ― 2010/08/30 15:59

最初の火は村はずれの鶏小屋で出た。幸いけが人などはいなかったが、逃げ遅れた雌鳥数羽が卵と共に焼けた。三日後に道具小屋の戸口、その翌日、伯母の嫁ぎ先の家の屋根が燃えた。いずれもすぐに消し止めたものの、まったく火の気のない場所であったので、祖父は皆に手分けして見回りを行うよう指示した。大人たちと一緒に歩いていた弟が、先端が焼け焦げた矢を見つけた。村の者が猟のために使う矢とは違い、ずっと丈夫で、上等そうな羽飾りがついていた。早速祖父の元に男衆が集った。誰かが、これは兵隊の使うものだ、といった。こんな立派な矢は、この村の誰も持ってはいない。きっとあいつだ、と誰かが叫んだ。まだ仕返しが足りていないのだ、誰か死ぬまで止めないに違いない。いきり立つ若者たちを、祖父が右目だけで睨み黙らせた。不審火であることは間違いがない故、わしがこの事態を報告しに王の元に参じる、いっそう厳重に警備を行うように。もしわしのいない間に、誰が火をつけたのか判明しても、絶対に手出しはするな、王の裁きを待つのだ。
翌日夜も明けぬうちに、祖父、祖父と同じ年回りの男ばかり数人が連れ立って村を出て行った。王のいる宮までは山を越えねばならない。どんなに急いでも三日はかかる。山賊も匪賊も出る。弟も一緒に連れていってくれるよう泣きながら頼んでいたが、祖父は頑としてきかなかった。皆で村はずれまで一行を見送った。やがて日の光が祖父の背中を照らす。山際から顔を出した太陽は血のように赤く、奇妙にぼやけていた。


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