とあるエピソード 二2009/09/11 12:37

 さほどひどい雨ではなかった。が、目的の温泉地に行くまでは、けっこうな山道をのぼらねばならない。慣れない道の上、ところどころ舗装していない箇所もあり、車は遅々としてすすまなかった。
 夫の久嗣が腕時計を見てため息をついた。宿に当初伝えた到着予定時間をとうに過ぎている。連絡しようにも、田舎のタクシーに電話などついていようはずもなかった。
 運転手は方向も何もわからないらしく、曲がり角や交差点の度に一々久嗣に聞いてくる。だが久嗣といえども、それほどこのあたりの道に詳しいわけではない。似たような道筋を一本間違え、どこをどう走ったものか、全然見当違いの場所に出てしまった。とりあえず元の道に戻ろうと、バックをかけた途端、がくんと車体が傾き、動かなくなった。
 あわてて外に出ると、左側の前輪と後輪両方とも、側溝にはまってしまっていた。
 久嗣が外に出て押したが、びくともしない。美津子も、晴れ着が雨に濡れるのも構わず手伝ったが、ダメだった。田舎の山道のこと故、通る車もすくない。雨のためか通行人さえもいない。ただ、集落のようなものは薄暮の中、近くにぽつぽつと見える。
 運転手は半泣きの顔で、誰か探してきますといって走り去った。

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2009/09/12 09:14

とある!
文章塾といえば「とある」シリーズですね(笑)

前途多難な新婚カップルですねえ。
まさか、このあと運転手が桂三枝とかを連れてくるんじゃないでしょうね?
「新婚さん、いらっしゃーい」
とか言って。

でも、これってまさか
おさかさんの新婚体験記じゃないですよね?

_ おさか ― 2009/09/12 09:25

ヴァッキーさん
>これってまさか
おさかさんの新婚体験記じゃないですよね

て、をいっ喧嘩うっとんのかいっ(笑
私の新婚の頃は、携帯はまだあまり普及してなかったですが
公衆電話はそこらじゅうにありました(笑
古き良き時代のお話であります

_ おっちー ― 2009/09/13 14:08

 なんか静かな感じが文体から染み出してきていて とても上品な印象を受けましたけど、これからどうなるんでしょうね。
 波乱があるのか、しんしんとした感じでこのまま着地するのか。
 いろいろ想像を巡らしてしまうんですが、続きを楽しみにしています。

 ちなみに今日、本当に久々(2ヶ月ぶり!?)で太極拳ですよおー。
 日曜予定きっちりで、ようやく暇がとれました。
 これから出掛けます。

 ではでは、また、失礼しまっす!

_ おさか ― 2009/09/14 14:11

おっちーさん
私も今日太極拳でしたー♪ 相変わらずパワフルで元気なおっしょさんでしたよ

昭和初期の雰囲気を出した文章を書いてみたくて書いております
出てるかなあ?
のんびり書きますので、のんびり読んでくださいませ(笑

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパムが多いのでクイズ認証にします。
長田製紙所の「長田」、読み方をひらがな三文字で入力して下さい

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://osasky.asablo.jp/blog/2009/09/11/4572703/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。