むかし語り(七)2010/09/06 14:28

 祖父の一行だった。緋色の刺繍の入った上着を着た都の役人らしき者とともに馬に乗っている。貴重な手技を持つ村の不審火を重く見た王が、すこしでも速く村に戻れるようにと取り計らったのだ。先の村長は前に進みでて頭を垂れ、人の輪を払って馬の生首を露にした。若い役人の顔色が変わったが、祖父は黙って生首のすぐ側にしゃがみ込むと、じっとその乾きかけた切り口を見ていた。先の村長が途切れ途切れに語る。村の外から持ち込まれたことは明白であること。誰も何も見ていない、何も聞いていないこと。祖父はわかったと頷くと役人を促して己が家にいざない、しばらく出て来なかった。陽が高く差し昇り、行き交う人々の影が短くなった頃、若い役人は馬を飛ばし村を出て行った。

 不審火の沙汰はどうなったのか、それにあの生首の件は。役人の姿が村境を越えて消えた途端、皆が祖父の元に集まりだした。祖父は皆が揃ったのを確かめると言った、戦が始まるぞ、と。